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イノベーション戦略を考える
久保田 達也 准教授
社会イノベーション学部 政策イノベーション学科
専門分野:イノベーション?マネジメント、新製品開発論、経営戦略論
久保田 達也 准教授
社会イノベーション学部 政策イノベーション学科
専門分野:イノベーション?マネジメント、新製品開発論、経営戦略論
製品境界が見えなくなってきたことにともなって、顧客のニーズの把握も以前より難しくなっている。カメラなら画素数、オーディオプレイヤーなら音質というように、製品と主要な性能指標がほぼ一対一対応で決まり、製品の善し悪しが決まるという状況ではなくなってきているのである。例えば、中国のスマートフォンメーカーであるOPPOは、撮影した際に年齢や肌の状態に合わせて人工知能で写真を自動補正する機能が受け、アジアを中心に急速な伸びを見せている。SNSが浸透する中で、多くの若者が求めるのは「ありのままの高解像度の画像」ではなく、「友人が見たときに魅力的に見える画像」であることにいち早く気づいたことが成功の一因である。製品を客観的な性能指標で評価?判断することは、客観的で他社の製品と比較しやすく、周囲からの納得も得られやすいため、開発プロセスで重用されやすい。しかし、そこから魅力的な製品が生まれにくくなっている。
顧客の求めているものを深いレベルで理解し、それを実現するために他社と積極的に協調し、さらに、自社が利益を獲得できるビジネスモデルを設計する。非常に困難であるが、これらを同時に実現することが企業には求められている。
3年前、サバティカルの期間にUC Berkeleyに滞在した。大学から車で1時間のシリコンバレーには、グーグルやアップル、フェイスブック、マイクロソフトを始めとした多くのテック企業の本社やスタートアップが点在する。家賃の高騰やコロナ禍の影響で、スタートアップがシリコンバレーから離れつつあるが、依然としてアメリカのテックビジネスの中心地である。
滞在中、日本からの駐在員の方からよく聞こえてきたのが、現地企業と協業することの難しさ、その背景にある本社と現地の慣行との不適合である。現地で有望な協業先を見つけても、駐在員には十分な権限が与えられていないため他国の企業に取られてしまう。失敗からの学習が奨励される文化の中で、社内の業績評価ではいかにミスしないかが重視される。協業先と信頼関係を築くためには長期の滞在が必要であるが、人事慣行上3年で異動が求められるなどである。国を超えた協業の難しさを示すエピソードであるが、企業のプロセスや仕組みを含めたイノベーション戦略を策定することの重要性を示唆している。