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マイナーで、マニアックな保険会計に潜む重大な会計問題
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
前述のように、保険会計は業界特殊的な会計処理が求められていますが、それは日本に限ったことではありません。現行の企業会計は発生主義会計に基づいています。発生主義会計とは、経営活動の成果と努力を示す収益?費用の計算を、現金収支にとらわれることなく、経済的事象の発生に即して決定していくという考え方です。発生主義会計と対比される考え方が現金主義会計であり、これは、収益?費用の計算を現金収支に基づいて行うものです。例えば、クレジットカード取引など現金決済が後日となる商品販売の場合、現金主義会計では販売時に収益を計上しない一方、発生主義会計では収益を計上します。
一般事業会社の会計は、もちろん発生主義会計に基づくものですが、伝統的な保険会計実務では、一部、現金主義的な処理が求められています。つまり、保険会社は、保険料収入時に一括して収益として計上しています。このため、契約期間が数年にわたるものであって、契約初年度に契約全期間に相当する保険料を一括収入する場合でも、受取時に全額を収益とするため、単年度の成果を測りにくい構造となっています。
また、保険会社は、契約者より受領した保険料を、将来の保険金支払に備えるために責任準備金(保険負債)として積み立てますが、生命保険の場合、契約期間が数十年にわたることもあり、責任準備金の積立期間もそれだけ長期に及ぶことになります。にもかかわらず、現行実務のもとでは、保険料の算定(すなわち、責任準備金の算定)に用いる計算基礎率(予定死亡率、予定利率、予定事業率)は基本的に契約締結時のまま改訂されず、責任準備金は原価ベースで測定されます。このため、時間が経過するにつれ積み立て不足があるのかどうかといった状況が適時に明らかになりません。
このような保険会計実務は、適正な期間業績や財政状態を伝えるものではないと批判されてきました。このため、国際会計基準審議会の前身である国際会計基準委員会は、保険業が国際化の進む業界でありながら、国際的に統一された会計ルールが存在せず、また、既存の保険会計実務が「ブラックボックス状態」であることを問題視し、国際会計基準の策定プロジェクトの一項目として保険会計を追加しました。