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2024.07.20
2024年6月15日(土)、本学8号館008教室にて、国際編集文献学研究センター主催による「シェイクスピア戯曲編集のプラクシス—大修館シェイクスピア双書 第2集/第2期 出版記念イベント」を開催しました。日本人研究者による詳細な解説と注釈を基にシェイクスピアを英語で読み解くというコンセプトで編纂された『大修館シェイクスピア双書』第2集——その編注を務めた先生方ご本人に直接お話を聞くというこの貴重な機会に、当日は、本学学生?教員だけでなく、様々な研究機関から幅広い分野の大学院生?研究者を中心に、多くの方々にご参加いただきました。報告?座談会を通じて、登壇者間、そしてフロアとの間で、熱のこもった意見交換がなされ、有意義かつ実りあるものとしてイベントは成功裏に終了しました。
イベントの開始にあたって、明星聖子先生(本学文芸学部教授?本センターセンター長)よりご挨拶いただいた後、井出新先生(慶應義塾大学文学部教授?本センター特別客員研究員)に導入として、本イベントの概要についてお話いただきました。そこでもご指摘があったように、本双書は、編者の先生方が自らの手でいちからテクスト(本文)を組み上げ、注を付したという点を特徴としています。今回のイベントでは、計5名の先生方にご登壇いただき、編集を行うにあたって対峙した問題やご自身が採られた編集方針、また、今後のさらなる翻訳?受容に向けた展望をお話しいただきました。
前沢浩子先生(獨協大学外国語学部教授)には、『じゃじゃ馬ならし』の編集について、解釈によって揺れてきた登場人物の役名表記(「学者Pedant」か「商人Marchant」か)の問題を中心に、編集の判断をめぐる葛藤、そしてFirst Folioの不完全性を残したままテクストを提示するという最終的な編集方針に至るまでの過程をご報告いただきました。
続いて、篠崎実先生(千葉大学文学部教授、日本シェイクスピア協会会長)には、『じゃじゃ馬ならし』とは対照的に、複数の刊本(Quart 1~4, First Folio)から本文を確定していかなければならない『リチャード二世』の編集の問題を概観し、刊本同士の異同について、検閲による削除か改訂による附加かという可能性があることをご指摘いただきました。
佐々木和貴先生(秋田大学名誉教授)には、『尺には尺を』で歌われる抒情詩(Take, O take those lips away…)を対象に、そのオーソリティをめぐる18世紀から現在に至るまでの注釈研究を詳細に整理していただきながら、双書における注釈について、日本でシェイクスピアのテクストを編集し出版する意味という点にも触れながらご発表いただきました。
続いて、佐藤達郎先生(日本女子大学文学部教授)には、『アントニーとクレオパトラ』のFirst Folioにおいて韻文と散文がきちんと区別されていない箇所をめぐって、その背景にある植字工の問題や後期シェイクスピア戯曲の特徴にも触れながらご解説いただき、双書においてそれらをどう判断し編集しているのかについてご報告いただきました。
最後に、再び井出先生にご登壇いただき、『冬物語』をFirst Folioに基づいて編集する際、そのままでは意味の通らない箇所にどのように手を入れられたか、そして、どのような注を補われたかについて、紙幅や想定読者の問題に触れながらご解説いただきました。また、双書全体のまとめとして、そのような制約の中で行われる選択が編者の個性となり、各巻で編集方針が異なるという点が双書の魅力のひとつであるということを確認されました。
続く座談会、質疑応答では、英米系の編集理論でキーワードとされる「折衷的(eclectic)」な編集をキー概念に、編者が手を入れることへの意識や複数の刊本/版がある場合のテクスト編集の問題について意見交換がなされたほか、上演と読書という二重の性格を持つ戯曲テクストの読み方や、注や版面のあり方、想定読者の規定、シェイクスピアの意図やオーサーシップ、ひいては文学テクストにおける「完成」概念の問題についてなど、多岐にわたる論点について熱のこもった議論が交わされました。
なお、当日は各発表と質疑応答の合間にコーヒーブレイクが催され、活発に交流が深められました。
国際編集文献学研究センターでは、今後も定期的に編集文献学にかかわるイベントを開催いたします。その際には、改めて本学サイトでお知らせしますので、ご興味?ご関心のある方は、ぜひご参加ください。