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2023.08.23
2023年7月15日(土)、本学9号館グローバル?ラウンジにて、国際編集文献学研究センター主催によるシンポジウム「ヘルダーリン 学術版編集の歴史——翻訳のための編集を考える」を開催しました。当日、本学学生?教員だけでなく、様々な研究機関から幅広い分野の大学院生?研究者を中心に、多くの方々にご参加いただきました。今回のシンポジウムでは、ヘルダーリンの著作集、とりわけ後期詩のこれまでの編集状況、そして今後の新たな編集/翻訳のあり方をめぐって多くの議論がなされ、有意義かつ実りあるものとしてイベントは成功裏に終了しました。
イベントの開始にあたって、明星聖子先生(本学文芸学部教授?本センターセンター長)よりご挨拶いただき、本センターおよびシンポジウムの目的についてご説明いただきました。
シンポジウムでは、史的批判版を中心に、ヘルダーリンの学術版編集史における主だった版の特徴について、計5名の先生方にご発表いただきました。まず、矢羽々崇先生(獨協大学外国語学部教授?本センター特別客員研究員)に導入として、ドイツにおける学術版編集(Edition)の概念やそこでの主な類型、加えて、本シンポジウムの概要についてご説明いただきました。
小野寺賢一先生(大東文化大学外国語学部准教授)には「著作集の配列とジャンル区分の問題——へリングラートを中心に」と題して、へリングラート版の編集方針に関して、特に作品配列の問題と、その背景にあるゲオルゲ派の影響に着目してご報告いただきました。
続いて、林英哉先生(三重大学人文学部特任准教授)のご報告「影に隠れた史的批判版全集——ツィンカーナーゲル」では、当時へリングラート版と競合していたツィンカーナーゲル版を、近年出版された注釈、校異について書かれた遺稿と合わせて読み解き、ツィンカーナーゲルが行ったヘルダーリンの手稿の再現の特徴と限界について、論じていただきました。
大田浩司先生(帝京大学外国語学部教授)には「成長する有機体としての詩——バイスナーとシュトゥットガルト版」と題して、先行する2つの版に対するバイスナーの批判、そして階段モデルに代表される彼の編集方針の特徴と、その背景にあるゲーテの形態学の影響、さらに、それに寄せられた批判についてご発表いただきました。
益敏郎先生(熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授)には「編集のミュトスとロゴス——ザトラーとフランクフルト版」と題して、シュトゥットガルト版に対抗する形で生まれたフランクフルト版の持つ政治性と、手稿の再現のために導入された独自の編集方法(「シグマ?システム」)についてご説明いただいたのち、この版をどのように評価すべきかについて論じていただきました。
最後に、再び矢羽々崇先生にご登壇いただき、「学術版編集の可能性——シュミット、クナウプ、レイタニ」と題して、ドイツ語-イタリア語の対訳版であるレイタニ版のテクスト編集を中心に、史的批判版以後に出版された3つの版の検討を通じて、それまでの史的批判版の仕事を前提とし、編者の主観を本質的な構成要素とする編集のあり方や、非ドイツ語話者によるドイツ語テクストの編集/翻訳が持ちうる意義について、ご講演いただきました。
質疑応答では、ドイツ語以外の言語圏におけるテクスト編集の状況や、哲学領域に属するテクストの編集とヘルダーリンをはじめとする文学テクストの編集との違い、また、各領域において研究者が主としてどのような版に依拠しているのかなど、分野横断的な意見交換がなされました。加えて、これまでのヘルダーリンの邦訳がどのようなものであったのか、さらに、新たな翻訳においては注釈や校異などがどのような形で組み込まれることが求められるのかなど、多岐にわたる論点について、議論が交わされました。
国際編集文献学研究センターでは、今後も定期的に編集文献学にかかわるイベントを開催いたします。その際には、改めて本学サイトでお知らせしますので、ご興味?ご関心のある方は、ぜひご参加ください。