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  • 2022.11.09

    【開催報告】国際編集文献学研究センター主催 第1回セミナー?第2回シンポジウム

2022年10月22日(土)、本学9号館グローバル?ラウンジにて、国際編集文献学研究センター主催による第1回セミナー?第2回シンポジウムを開催しました。当日、本学学生?教員だけでなく、様々な研究機関から幅広い分野の大学院生?研究者を中心に、多くの方々にご参加いただきました。今回のセミナー、シンポジウムでは、それぞれ、オーストリア文学、イタリア文学を代表する作品の最新の編集状況をめぐって多くの議論がなされ、有意義かつ実りあるものとしてイベントは成功裏に終了しました。


セミナー「ムージル『特性のない男』の編集をめぐって」では、北島玲子先生(上智大学名誉教授?本研究センター特別客員研究員)、桂元嗣先生(武蔵大学人文学部教授)をお招きして、ローベルト?ムージルの未完の長編小説『特性のない男』の編集の現状とその問題点について講義していただきました。北島先生には、作者生前の作品出版の経緯から、21世紀に刊行されたデジタル版(クラーゲンフルト版)、そしてそれを基にして編集されたとされる新たな普及版(ファンタ版)の試みに至るまでの、ムージルの遺稿編集の歴史についてお話していただきました。続く桂先生には、最新のファンタ版の編集上の特徴について、とりわけ作品第二巻の「続き」にあたる草稿群と作品執筆の「前段階」にあたる草稿群を中心に、ムージルの遺稿編集における「学問性」と「読みやすさ」の間の緊張関係についてお話していただきました。今回のセミナーを通して、『特性のない男』の遺稿編集の複雑さと困難さ、デジタルメディアを駆使した編集とそれをもとにした新たな書籍版編集の可能性と限界について、ご講義いただきました。


シンポジウムでは、原基晶先生(東海大学文化社会学部准教授?本研究センター特別客員研究員)をお招きして、「ダンテ『神曲』「地獄篇第五歌」フランチェスカの愛の歌をめぐって—新たな校訂版テクストをもとに」と題して、ダンテ生誕700年にあたる2021年に刊行された最新の校訂版『神曲』の編集についてご講演いただきました。本講演ではまず、1960年代から現在に至るまでのそれぞれの校訂版において、複数の写本から写本系統図がどのように再構成され、そしてそれをもとに本文がどのように確定されてきたのかが説明されました。そしてそれを踏まえたうえで、最新校訂版が提示している「地獄篇第五歌」の本文をめぐって、14世紀の写本や古注にまで遡りながら、文献学的な観点からその妥当性について検討がなされ、従来の校訂版とは異なる本文が、フランチェスカの愛の歌の解釈、そしてフランチェスカという人物像の理解に与える影響についても議論がなされました。

コメンテーターとしてお迎えした伊藤博明先生(専修大学文学部教授?本研究センター特別客員研究員)からは、「ラハマン?メソッド」と呼ばれる写本の「校合」作業について詳細な補足コメントを、同じくコメンテーターの松田隆美先生(慶應義塾大学文学部教授?本研究センター特別客員研究員)からは、パオロとフランチェスカをモチーフにした絵画を例に19世紀における『神曲』第五歌の受容についてご紹介いただきました。さらに、コメンテーターの井出新先生(慶應義塾大学文学部教授?本研究センター特別客員研究員)には、シェイクスピア戯曲との比較を通じて、写本に基づく編集が目指す純粋な原典は一つでありうるのか、といった編集作業一般にかかわる重要な問題提起をしていただきました。質疑応答では、本文の確定とテクスト解釈あるいはテクスト受容との関係性、『神曲』のイタリア国内での位置づけなど、多岐にわたる論点について議論が交わされました。

国際編集文献学研究センターでは、今後も定期的に編集文献学にかかわるイベントを開催いたします。その際には、改めて本学サイトでお知らせしますので、ご興味?ご関心のある方は、ぜひご参加ください。