森 俊二 特別任用教授 「 特別活動の指導法(総合的な学習の 時間の指導法を含む)」
学生同士の信頼関係を築くコミュニケーションワークと二重討議方式(グループ討論と全体討論)を柱に据えて、教師に必要な実践力を養う授業
氏 名 :森 俊二(もり しゅんじ)
所 属 :共通教育研究センター
職 名 :特別任用教授
専門分野:教育学
対象者 :経済?文芸?法学部2年生
授業形態:講義
実施学期:2021年度後期
履修者数:14 名
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当該授業は、2019年度「授業改善アンケート」の回答率および一部の設問の評点を基準に決定される「ベストティーチャー賞」を受賞した授業であり、学生から高く評価された授業である。
授業内容?目的と取材当日の授業について
本授業は、教職課程科目の「教科及び教職に関する科目」で、中学校?高等学校教諭の免許取得に必要な必修科目に位置づけられている。学習指導要領に基づき、生徒が特別活動(ホームルーム活動?生徒会活動?学校行事)の意義を理解し、自己を実現し、周囲の人間関係を形成し、よりよい集団?学級?生徒会の主体となる指導の道筋を獲得すること、また、総合的な学習の時間の意義と原理を理解し、地域に根付いた福祉や環境?国際理解等の社会貢献活動を探究し、実社会の課題を探究する指導の方法と評価のあり方を学ぶ科目である。 児童?生徒が、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方?考え方を働かせ、横断的?総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質?能力を育成することを目標にしている。
このように、本授業では、生徒が主体的に社会に参加する能力を獲得し、21世紀を生きる力となる社会の課題を探求する総合的な学びを獲得することを目的としている。なお、授業は対面形式で行われ、グループワーク?討議を中心に行われている。
2021年10月8日の対面授業は、以下の流れで進められた。
用語説明
総合的な学習の時間
×
授業の流れ
①自己紹介?アイスブレイク。 ( 「将来、どのような教師になりたいか?」をテーマにグループで話し合い。)
②前回授業の振り返り。
③事前課題の発表?共有?ディスカッション(1)。
( 課題新聞(事前配付された記事、テーマは「ブラック校則」)と自由新聞(自身が気になった記事)についてグループで意見?感想を述べ合う。)
④事前課題の発表?共有?ディスカッション(2)。
( 課題内容:自身が担任になったクラスの学級開きの指導(実施)案と学級通信1号を作る。)
⑤振り返りシートの記入。
取材当日の授業は、初の対面授業ということもあり、最初はやや緊張していた様子だったが、冒頭の自己紹介やナラティブ?コミュニケーションのアイスブレイクなどを通じて、徐々に緊張が解れていく様子が見て取れた。 会話を通じて、自己と他者を再発見するためのコミュニケーションの手法。「どのように相手に話をするか」よりも、「どのように相手の物語(語り)を理解するか」を重視することにより、他者に対する不安感や不信感を和らげる効果がある。
教員から、「話し合いをするには、授業空間を創るための居場所(土壌づくり)が必要である。そのために、アイスブレイクを実施する意義は大きい。」との説明もなされていた。
前回授業の振り返り後には、課題新聞と自由新聞の事前課題について、3 つのグループ(1 グループ3 名)に分かれて、自身のノートに貼り付けた記事やコメントを見せ合いながら活発な討議が行われていた。学生は皆、傾聴の意識が高く、集中して他人の発表を聞いていた。
また、教員は机間巡視をしながら、学生たちの理解度?進捗度に配慮してワークの時間を調整したり、スライドやオリジナル教材を用いたレクチャーを行うなど、実践とレクチャー(理論)を相互に組み合わせて学生の理解を深める工夫がなされていた。
用語説明
ナラティブ?コミュニケーション
×
続いて、学級開きの指導案と学級通信の事前課題は、3つのグループに分かれて一人3分で内容を共有し、最後に各グループの代表者による発表が行われた。
これまでの学びを活かした工夫を凝らした発表が行われ、他の学生からのフィードバックについて熱心にメモを取っている姿が印象的だった。最後に、教員から総括がなされた。
取材を通じて、授業内に多くのグループワークが組み込まれ、実践と多様なフィードバックの獲得の機会が確保されていること、また、毎回、授業を通して学んだことや考えたことなどを「振り返り?リアクションシート」に記入することで、自身の思考をさらに深め、表現する力を磨いていく様子がうかがえた。
教員インタビュー(Q&A)
Q.授業のポイントを教えてください。
A. 授業の基本は、教育実践を課題として読み、学生同士で分析(対話)討論を行うことです。具体的には、毎回、課題新聞と自由新聞の課題を基に、それぞれ10 分間ほどの時間を取ってグループ討論と全体討論の二重討議方式を取り入れています。課題新聞の記事は、教員採用試験を想定して、いじめや不登校など教育問題に関わる記事を中心に選び、その現状や課題を認識?把握して、語る言葉(自分の見方、考え方)を持ってもらうことを狙いとしています。
また、自分のことを語っても受け入れてくれる空間(トポス)を作るために、学期中に3 回ほどメンバーを替えてグループワークをしたり、ナラティブ?コミュニケ—ションを行って不安や悩みなどを共有するようにしています。これらを繰り返して実施していくうちに、学ぶ側(学生)が主体性を持つようになり、教室の空気が変わっていきます。
授業の最後には「振り返り?リアクションシート」を、原則として実名で応答してもらい、次回授業の冒頭に全員で共有しています。実名としている理由について、対話応答は「自分を顕すこと」だからと説明しています。これは、将来教師になった時に、対話を通じて他者と自己との共通性と差異を見出し、生徒に自他認識を育むことによって、新たな共同意識や公共性(市民性)を創っていくと考えているからです。
Q. 学生への期待を教えてください。
A. 教師の実践力は、理論と実践を往還する実践知を獲得することで培われます。理論だけを学んでも具体的な生徒の姿や教師の葛藤をリアルにイメージすることは難しいでしょう。 教育実践を分析討論することで実践知を獲得し、実践理論にせり上げる。そうした実践知や具体的なケーススタディからの学び、ボランティアの現場経験等を踏まえて判断知を獲得し、教師として必要な身体性と生活指導に求められる生徒との呼びかけ?応答の関係を体得してもらいたい。また、学外の公開授業や研究会に参加したり、私が主催する自主ゼミに入会する学生もいます。その中では、公立中学校の学校生活支援員として活動する学生もいます。皆さんも積極的にこのような活動に参加してもらいたいと思っています。
Pick up 正課外の取組「自主ゼミ(通称:森ゼミ)」とは!?
日 時:2021年10月24日(日)13:30~16:45
場 所::Web会議システムZoom
スケジュール:
13:30?13:45 グループ交流(アイスブレイク)
13:45?14:50 実践報告(質疑応答含む)
14:50~15:00 休憩
15:00?16:10 グループ討論?全体討論
16:10?16:15 まとめ(総括)
16:15?16:45 交流会
内 容:
本ゼミナールは、森先生が主催する正課外のゼミ(教員志望の学生を中心に約50名が在籍)で、毎月1回程度の頻度で開催している。当日は、教員(OB?OG含む)と学生(学部生?院生)、計14名が参加。ゼミの進行は学生が務め、冒頭のアイスブレイクの内容は毎回進行係が相談しながら決めているとのこと。当日の実践報告では、私立中高一貫校に勤務する現役教員から、自身が受け持つ中学2年生のクラスの実情等(生徒の様子、クラスでの出来事、課題、自身の生徒観?教師像など)について詳細な報告がなされ、その後、生徒への対応や生徒の反応に関する質問?意見など、活発な討論が行われていた。
本ゼミナールが学生にとって、現役教員からの教科書的ではないリアリティのある話題(実践)に触れる貴重な学びの機会となっていること、また、報告者からは質疑応答のやり取りを通じて新たな気付きを得られたという発言もあり、教員側にとっても学び(気付き)の場となっていることがうかがえた。
学生インタビュー(Q&A)
Q. 印象に残っている授業はありますか?
A. 自身が作成した学級開きの指導案と学級通信を発表した授業です。これまでの授業で学習したことを形にして実践(発表)する、そして周りからのフィードバックを受けて改善するというサイクルを通じて、学んだ知識を他の知識と関連づけて考えることができるようになり、理解が深まりました。
A. 教員の実践記録が書かれたテキストを読んで討論を行った授業です。自分の意見を述べ、他者からの質問や意見をきっかけにして、新たな疑問や問題意識を基に新たな話題に展開していく。一つの話題について、このように皆と深い討論ができたことはとても印象に残っています。
Q. この授業のよいところはどんなところですか?
A. 毎回の課題新聞と自由新聞の課題を通じて、教育問題に関わる幅広い知識が増えていくところです。将来、教員になれた時に、自分の引き出しが増えることにも繋がると思っています。
A. 新聞の課題です。課題新聞は共通の記事を使って討論するので、多様な意見が聞くことができ、自由新聞では自分の知らなかった記事にたくさん触れることができるので、情報収集にも繋がっています。自由新聞の記事は、どういうわけか周りとは被らないので不思議です(笑)また、毎回の授業で、生徒の居場所となるような学級づくりのために、「対話」を重視している点です。森先生は、対話は会話と異なり、他者の意見を尊重して価値観を擦り合わせ、自身の考えを変えていくこと、つまり、他者との関係性を築くためのコミュニケーションの意味合いが強いと仰っています。授業では、“自分の居場所と感じる場所はどこ?”“今の自分に点数をつけるなら何点?”“自分を褒めるとしたらどんなところ?”など、なかなか他人には話しづらく、自分を見つめ直すようなテーマで対話を実践しています。私は人前ではあまり話せないタイプなのですが、授業での対話を繰り返すうちに他者と打ち解けることができ、自分のことを話せるようになりました。
A. 毎回の授業で、前回授業での「振り返り?リアクションシート」の結果を全体共有(フィードバック)してくれるところです。森先生は、シートに記入した学生全員の質問に対して、これまでの実践や根拠となるデータに基づいてコメントしてくださるので、いつも楽しみにしています。フィードバックだけで授業の半分近くかかっていたこともありました(笑)
※インタビューは3名の学生にご協力いただきました。